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■■ 1. 「顎運動研究の現状と将来展望」 |
坂 東 永 一 氏
徳島大学 名誉教授 |
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はじめに
顎運動の研究は、1805年のGario, JBの咬合器や1889年のLuce, CEの顎運動測定まで遡ることができ100年をはるかに超える歴史がある。顎運動を研究する目的の一つは、咬合干渉を起こさない補綴装置咬合面を製作するために、顎運動を口腔外で再現することであり、もう一つは、顎口腔機能の診断と治療効果の評価をすることである。
立体が立体運動をするとき、その状態を記述するには互いに独立した6個のパラメータが必要であり、上顎や下顎が変形しない状態、すなわち剛体条件が成立しているとき、顎運動は6自由度運動として測定、記録される。
顎運動測定
顎運動測定は、光や磁気、歪、超音波、X‐線、直線運動、回転運動のセンサさらには塑性材料等を用いて行われ、特定の顎位や咬頭嵌合位付近など時間的、空間的に顎運動の一部を対象とするものから終夜にわたって全運動範囲を6自由度で連続測定するものまで多岐にわたる。
顎運動は6自由度で測定することが望ましいが、簡便な方法が選択されることも多い。
1)開口量や側方移動量を物差し等で測定するのは、1自由度測定である。2)ゴシックアーチ描記は2自由度測定である。3)切歯点部の立体運動を測定するのは、3自由度測定であり、2点2次元運動測定も3自由度測定である。4)両側顎関節外側部標点の3次元測定は5自由度測定であり、両標点を結ぶ軸上の任意の点の立体運動を知ることができる。5)6自由度測定では位置と姿勢が一義的に規定されるので、咬合面や下顎頭など任意の点における運動を自由に知ることができる。Gibbsら(1966)の測定器は多くの知見1)をもたらした。
顎口腔機能の診断や治療効果の評価で保険適用あるいは保険との併用が認められたものは、かっての高度先進医療「顎関節症の補綴学的治療」では3自由度測定器と6自由度測定器が用いられ、保険点数が設定されている「顎口腔機能診断料」では20種類以上の3〜6自由度の測定器が認められていて、指定医療機関は全国に多数ある。先進医療「有床義歯補綴治療における総合的咬合・咀嚼機能検査」では切歯点部における咀嚼運動経路を解析対象としている。
解析点における測定精度
2点2次元測定から任意の点の運動を解析する場合、測定誤差が確率的に最も小さくなるのは2標点の測定値の平均値として求まる中点の運動である。3自由度測定であるのに4個の測定値が得られるこのような場合には、その冗長性をいかしたデータ処理をすることで測定誤差を軽減でき、誤差の小さい点を基準に任意の点の運動を求める重心基準剛体化処理法で誤差の拡大を最小限にとどめることができる。
しかし、このような配慮をしても測定部位から遠い点の運動を求めると誤差は拡大するので、顎関節部の運動を知りたい場合には切歯点前方で測定するよりは両側の顎関節外側部で測定する方が測定精度の面からは有利である。測定器の仕様に測定精度が記載されているが、センサの精度であることが多く、解析点における精度に言及していることは稀である。従って、測定器の購入に当たっては、知りたいことに対して必要な性能を有しているかをあらかじめ検討しておくことが肝要である。
顎運動を理解するために
顎運動のモデル化は、顎運動の理解をたすける良い方法であり、代表的なものに、ヒンジアキシスや全運動軸、運動論的顆頭点、下顎運動と相補下顎運動を統一する顎間軸がある。また、3次元再構築した歯列や顎関節の立体構造を6自由度顎運動データに基づいてコンピュータ画面上で運動させると「百聞は一見に如かず」で直感的な理解が得られる。
主機能部位や顎機能制御系など、咬合面形態が変化するとヒトの顎運動は変化することが知られており、生体への理解を深めることも重要である。
将来展望
測定が容易になり、精度が向上して、診断や評価がより確実になる。咬合可視化装置を実用化してデータベースを構築することで、顎機能制御系の解明が進むとともに、脳研究へも寄与するであろう。顎関節窩と下顎頭の形態の自動再構築が可能になると、下顎頭の6自由度運動をチェアサイドでリアルタイムに可視化でき、顎関節負荷を推定できるようになるかもしれない。
顎運動に興味ある若人のために参考文献1〜5)をあげておく。
参考文献
1)Lundeen HC, Gibbs CH: Advances in occlusion, Boston, Bristol, London, John Wright PSG Inc, 1982.
2)長谷川成男,坂東永一:臨床咬合学事典,東京,医歯薬出版株式会社,1997.
3)日本顎関節学会:顎関節症,京都,永末書店,2003.
4)日本顎口腔機能学会:よくわかる顎口腔機能 咀嚼・嚥下・発音を診査・診断する,東京,医歯薬出版株式会社,2005.
5)中野雅徳,坂東永一:咬合学と歯科臨床 よく?めて,?み心地の良い咬合を目指して,東京,医歯薬出版株式会社,2011.
略歴
1967年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1971年 東京医科歯科大学大学院修了
1971年 東京医科歯科大学助手
1979年 東京医科歯科大学講師
1979年 徳島大学教授(歯科補綴学第二講座)
1991年 徳島大学付属病院長
2000年 日本補綴歯科学会論文賞受賞
2005年 日本顎口腔機能学会賞受賞
2005年 徳島大学歯学部長
2008年 徳島大学名誉教授
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■■ 2. 「パノラマで顎関節がどこまで分かるか」 |
佐 野 司 氏
東京歯科大学 歯科放射線学講座 |
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パノラマエックス線撮影(以下、パノラマ撮影)は、正確には回転パノラマエックス線撮影、もしくは断層パノラマエックス線撮影といい、周知のように歯および顎骨のパノラマ像(展開像、総覧像)を得ることができる撮影法である。
パノラマ撮影は、上下顎骨および隣接する構造物を描出できることから顎関節症以外の疾患との除外診断を含めたスクリーニング検査としての評価は高い(1-3)。パノラマ撮影法の顎関節骨構成体における骨変化の正診率(accuracy)は、71〜84%とされ、側斜位経頭蓋法に優る(3)。顎関節症類似の臨床所見を呈する上顎洞疾患、筋突起過形成、茎状突起過長症、他部位の炎症および顎関節の発育異常、骨折、関節リウマチ、腫瘍および腫瘍類似疾患、骨性強直症などの骨変化および石灰化物の形成を伴った疾患の除外診断には有効である(3)。わが国では、顎関節疾患を診断する際、顎関節症と先天異常および発育異常、後天性疾患との鑑別または変形性関節症の除外診断のため、パノラマエックス線撮影を施されることが一般的である。
パノラマ撮影では、歯列弓およびその相当部と歯列弓の後方線上の像が鮮明になるよう、他の構造物を"ぼかす"必要があるため、断層撮影法の原理を応用している。パノラマ撮影では部位により断層域が異なっており、前歯部では狭く、臼歯部に向かうと広くなる。顎関節部では断層域が広いことから単純に像を得るという観点からは有利である。しかし、一方で断層域が広いため顎関節の骨性構成体の正確な描出や構成体間の空間的な把握には適さず、routine検査として用いることに警鐘をならす臨床医もいる(4)。また、エックス線束が下顎頭長軸に対して斜めより入射されるために通常、下顎頭の外側部では骨変化の診断精度が高いが、内側部、中央部では診断精度が落ちるとされる(1,5)。さらに、関節結節と下顎窩の評価に関しては、頬骨弓と頭蓋底部が重積するため、外形と構造の著明な変化以外は十分に検出はできないとされる(1,5)。下顎頭長軸に近い角度からエックス線束が入射する顎関節パノラマエックス線撮影法では、骨変化の正診率(accuracy)は、78%とされ、診断精度は通常のパノラマ撮影法と同等かやや高いとされている(3)。
今回の講演では、上記の特徴を踏まえて
1.パノラマ撮影の特徴とpitfall(落とし穴)
2.変形性関節症のパノラマ所見
3.顎関節症類似の臨床所見を呈する疾患のパノラマ所見
4.顎関節症T‐V型のパノラマ撮影法での診断の可能性
についてお話をさせていただき、日常の診療に少しでもお役に立つことができればと思っている。
参考文献:
1. Brooks,S.L., Brand,J.W., et al.:Imaging of the temporomandibular joint. A position paper of the American Academy of Oral and Maエックスillofacial Radiology. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 83:609-618, 1997.
2. 顎関節症の診断と治療のガイドライン作成委員会:顎関節症の診断と治療. 日歯医師会誌50:5-78,1997.
3. 日本顎関節学会編:顎関節症診療に関するガイドライン. 2002.
4. Peters, R.A., Gross, S.G. 編, 杉崎正志, 木野孔司, 他監訳:顎関節症と口腔顔面痛の臨床管理,クインテッセンス出版, 東京, 1997, p.167-181.
5. 森田五月:回転パノラマエックス線写真による顎関節部の画像形成に関する研究. 鶴見歯学, 23:365-376, 1997.
略歴
1991年 昭和大学大学院歯学研究科修了 (歯学博士)
1993年 米国・ロチェスター大学医学部客員講師
1995年 昭和大学歯学部講師(歯科放射線学教室)
2004年 東京歯科大学教授(歯科放射線学講座)
日本顎関節学会理事・専門医・指導医
日本歯科放射線学会理事(常任)・専門医・指導医
国際歯顎顔面放射線学会(IADMFR)Senior Vice President
日本歯科医学教育学会理事
日本大学松戸歯学部、昭和大学、岩手医科大学、九州歯科大学大学院、広島大学大学院非常勤講師
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■■ 3. 「顎関節症の症状を呈する他の疼痛性疾患との鑑別」 |
築 山 能 大 氏
九州大学大学院歯学研究院 口腔機能修復学講座
インプラント・義歯補綴学分野 |
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顎関節症の疾患概念は,「顎関節や咀嚼筋等の疼痛,関節(雑)音,開口障害ないし顎運動異常を主要症候とし,その病態には咀嚼筋障害,関節包・靭帯障害,関節円板障害,変形性関節症などが含まれる」(日本顎関節学会,1996)とされている。また,顎関節症の診断基準は,「顎関節や咀嚼筋等の疼痛,関節(雑)音,開口障害ないし顎運動異常を主要症候とし,類似の症候を呈する疾患を除外したもの」(日本顎関節学会,1998)とされている。すなわち,顎関節症には自己完結的な定義は存在せず,顎関節症と診断するためには顎関節症の症状を呈する可能性のある他の疼痛性疾患との鑑別を行うことが必要である。
顎関節症と鑑別すべき疼痛性疾患には,米国口腔顔面痛学会による口腔顔面痛のガイドライン(AAOP,2008)に示されているような,頭蓋内の疼痛症,片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛などの一次性頭痛障害および側頭動脈炎や外傷後頭痛などの二次性頭痛障害,神経の障害や疼痛感受性の変化等によって生じる神経障害性疼痛,歯および歯周組織の疾患に起因する口腔内疼痛障害,頸椎損傷等の頸部の疾患によって生じる頸性疼痛障害,耳や副鼻腔などの関連諸組織の障害による疼痛,身体表現性障害などに代表される心因性疼痛障害など,さまざまな病態が含まれる。そのため,その診断と治療にあたっては歯科のみならず医科の問題まで含めた幅広い知識を必要とする。また,併存症(comorbidity)の概念についても理解しておく必要がある。すなわち,患者は顎関節症だけでなく他の疾患も併せて罹患している可能性があり,そのために難治性を呈する場合もある。特に,身体表現性障害などの精神疾患を併存する症例では,複雑な臨床像を呈し,診断・治療がきわめて困難になる場合も少なくない。
これらの知識は,疼痛性疾患の診療にあたる医療者にとってぜひとも必要と考えられるが,「痛み」が患者の主たる受診理由であることが多い歯科においても十分に達成されていないのが現状であろう。我々歯科医師は,歯科大学・歯学部卒前教育の段階から,組織の損傷や炎症などの器質的な病態によって生じる疼痛については多くの情報を得ており,日常臨床においても,痛みの部位にある病態へのアプローチにより問題を解決しようとする意識が強く作用しがちである。しかしながら,慢性疼痛を呈する症例では疼痛の発生源の同定が困難で,「疼痛の部位≠疼痛の発生源」である場合も少なくない。また,身体所見に見合わない訴えを有する症例では,社会・心理学的な問題が関与していることが多い。さらに,疼痛や機能障害が遷延化し,苦痛が増大している患者においては,もはや発症時の疼痛の原因に対する治療は奏功せず,薬物療法や心理学的なアプローチが主軸になる場合も多い。
以上のことを踏まえ,本講演では,実際に顎関節症の症状を呈する他の疼痛性疾患との鑑別を行った症例(神経障害性疼痛,疼痛性障害,頭痛と顎関節症の複合症例など)を供覧し,顎関節症の診断における他の疾患との鑑別診断の重要性について議論したい。
略 歴
1987年 九州大学歯学部 卒業
1991年 九州大学大学院歯学研究科 単位取得後退学(1993年4月修了)
1991〜1999年 九州大学歯学部附属病院 助 手(第2補綴科)
1995〜1997年 UCLA歯学部 訪問研究員(Diagnostic Sciences and Orofacial Pain)
1999〜2002年 九州大学歯学部附属病院 講 師(第2補綴科)
2002〜2007年 九州大学大学院歯学研究院 助教授(口腔機能修復学講座)
2007年〜現在 九州大学大学院歯学研究院 准教授( 同上 )
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■■ 4. 「in vitro滑膜炎モデルから顎関節を考える」 |
近 藤 寿 郎 氏
日本大学 松戸歯学部 顎顔面外科学講座 |
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臨床の場で比較的高頻度に遭遇する顎関節の器質的疾患には、関節円板転位性障害である顎関節内障 (internal derangement; ID)と関節面の変性破壊による変形性顎関節症(osteoarthritis; OA)がある。両疾患の関連については、IDの進行の結果としてOAに至るとする仮説と、関節面変性(OA化)の結果としてIDが起こるとする仮説が提案されてきている。 両疾患では、ともに機能時の関節痛が臨床症状として挙げられ、上関節腔から採取した滑液中には、 IL-1β、TNF-αをはじめIL-6、およびINF-γなどの炎症性サイトカインやMMP-3、MMP-1など基質タンパク分解酵素、白血球をリクルートするケモカインファミリーなどが検出されている。これらのことから、IDとOAはともに関節炎が存在する病態ということができる。関節における炎症発現の場は滑膜組織であり、滑膜組織中のマクロファージ、樹状細胞、滑膜線維芽細胞などが上述した炎症関連物質を主に産生していると考えられ、微小血管透過性の亢進、白血球の走化性亢進などを誘導するものと考えられる。
臨床的に滑膜に起こる炎症病態(滑膜炎)に関心が持たれたのは、関節鏡視技術の発展により、滑膜の生じる充血や毛細血管密度の増加などが臨床症状と関連性が深いことが見いだされたことによる。しかし病理学的な滑膜炎の研究には限界があり、滑膜の炎症病態をよりダイナミックに反映するin vitroの実験系が滑膜炎の解明には必須であり、上述した炎症関連物質の詳細を理解し、また各物質の相対的関係の理解が、治療法とくに滑膜炎を標的とした薬物療法の開発にも貢献できる可能性がある。
われわれは、独自にin vitroヒト滑膜炎モデルを作成し、滑膜の炎症病態の一端を明らかにすべくいくつかの研究を行い報告してきた。この講演では、臨床的な疑問を基礎的な研究へとつなぎ合わせ、どのように臨床にフィードバックしようしているかを概述したい。
研究目的:
顎関節内障病態関連遺伝子の検索を目的に,顎関節内障患者由来滑膜細胞(滑膜細胞)に顎関節内障患者滑液で上昇していうるIL-1βまたはTNF-αを作用させ,GeneChip解析を行う。
研究の方法:
(1) 顎関節滑膜細胞の分離・培養;関節鏡視下洗浄療法の際に採取した顎関節滑膜組織から,out growth法にてヒト顎関節滑膜細胞を分離し,培養を行った。
(2) GeneChip解析; 滑膜細胞にIL-1βまたはTNF-α刺激を行い,total RNAを抽出後,in vitro transcriptionを行い,GeneChipへhybridizeした。洗浄・染色後,蛍光強度をスキャナーで測定した。GeneSpringを用いて,遺伝子発現解析を行った。(3) 経時的発現量の測定; 遺伝子発現の経時的変化はRT-PCR, real time-PCRを用いて,タンパク質の産生量の経時的変化はELISA法を用いて測定した。(4) Signaling Pathway Analysis; Ingenuity Pathway Knowledge Databaseを用いて,発現変動が認められた因子の分子間相互作用を調べた。(5) in vivo滑膜炎モデル;ラット顎関節腔にIL-1βを投与後,組織学的検討を行った。
今までにわかったこと:IL-1βまたはTNF-α刺激顎関節滑膜細胞の遺伝子発現プロファイリング;顎関節滑膜細胞をIL-1βまたはTNF-αで刺激した時,遺伝子発現上昇率の高い遺伝子群にはケモカインファミリーが多く認められた。また破骨細胞の成熟に必須のmacrophage-colony stimulating factor (M-CSF)やPGE2産生に関与する誘導型酵素のcyclooxygenase-2 (COX-2)も認められた。また,IL-1β刺激顎関節滑膜細胞ではIL-1β遺伝子発現が上昇していた。Signaling Pathway Analysisでは、IL-1βまたはTNF-α刺激ではNF-κB pathwayの活性化が認められた。一方,NF-κB pathwayの抑制因子であるA20の発現上昇も認められた。
in vitro顎関節滑膜炎の結果を,in vivo ラット顎関節滑膜炎モデルで検証した。ラット顎関節腔内にIL-1βを投与すると表層滑膜細胞の肥厚化および毛細血管の拡張が認められた。また,免疫組織化学染色を行ったところ,ケモカイン類, M-CSF, COX-2陽性所見が認められた。
以上の結果は、滑膜炎研究の端緒に過ぎないが、今後はケモカインにリクルートされる白血球や活性化された自然免疫系細胞の動向などを調べることで、滑膜を標的とした治療戦略を構築したいと考えている。
略歴
1980年 鶴見大学歯学部卒業
1985年 鶴見大学大学院歯学研究科博士課程修了
1991年 労働福祉事業団 横浜労災病院歯科口腔外科部長
1999年 鶴見大学歯学部助教授(口腔外科学第1講座)
2003年 日本大学教授(松戸歯学部 口腔外科学講座)
2005年 日本大学教授(松戸歯学部 顎顔面外科学講座:主任)
現在に至る
口腔外科専門医,(社)日本口腔外科学会指導医,
日本顎関節学会認定顎関節症専門医,日本顎関節学会認定指導医
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■■ 5. 「顎関節症患者の機能評価のガイドライン」 |
志 賀 博 氏
日本歯科大学 生命歯学部 歯科補綴学第1講座 |
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高度情報化の現代では、健康やQOLに関する国民の意識が向上し、質の高い医療と同時に治療効果を客観的に評価し、患者に呈示する科学的根拠に基づく医療(EBM)が求められるようになってきている。
歯科医療の主な目的には顎口腔系の機能の回復と維持があり、それを達成すると同時に客観的に評価することが必要となる。また、顎口腔系の機能を客観的に観察・評価することは、診断や治療方針の確立、治療効果の把握に寄与するものであり、患者のQOLの向上に役立つものである。日本顎口腔機能学会は、「顎口腔系の諸機能に関する基礎ならびに臨床の真理を探究し、その進歩発展を図ること」を目的とし、また顎口腔系の機能を評価する試みに関する歯科医学の広い分野でのエキスパートを有している。そこで、日本顎口腔機能学会では、固定性義歯装着者、有床義歯装着者、顎関節症患者、小児、矯正患者、摂食・嚥下障害患者に対する6つの機能評価のガイドラインの作成を行い、社会に提示することとした。ガイドラインの作成は、「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」に基づいて、2007年から活動を開始し、2010年9月に固定性義歯装着者、有床義歯装着者、顎関節症患者、矯正患者に対する4つの機能評価のガイドラインを作成した。
顎口腔機能の客観的評価は顎関節症の診断、治療方針の決定において重要な位置を占めるものであり、その評価方法に関しての指標となる的確なガイドラインの作成が望まれてきた。また、治療開始前だけでなく、治療開始後においても機能評価を行うことにより、より客観的に治療効果の判定、経過観察ができるものと考えられている。そこで、我々は、これまでの顎関節症患者の顎口腔機能評価法を筋活動(筋電図)、顎運動、咬合力の3つの観点に分けてレビューし、現状での機能評価法ガイドラインの作成を行った。
本講演では、日本顎口腔機能学会におけるガイドライン策定の基本方針と顎関節症患者の機能評価のガイドラインの内容について、あらましを説明させていただく。
文献
1) 福井次矢,吉田 雅博,山口直人編.Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007.1版.東京:医学書院;2007.
2) Bakke M, Hansdottir R. Mandibular function in patients with temporomandibular joint pain: a 3-year follow-up. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 2008 ; 106 : 227-234.
3) 社団法人日本補綴歯科学会有床義歯補綴診療のガイドライン作成委員会編.有床義歯補綴診療のガイドライン(2009 改訂版).日補綴会誌 2009;1:E 205−284.
4) 日本顎口腔機能学会顎口腔機能評価検討委員会編.顎口腔機能評価のガイドライン.顎機能誌 2010;17:E 1−193.
略歴
1979年 同志社大学工学部電子工学科卒業
1986年 日本歯科大学歯学部卒業
1990年 日本歯科大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
1990年 日本歯科大学歯学部歯科補綴学第1講座助手
1991年 日本歯科大学歯学部歯科補綴学第1講座講師
1992年 アメリカミシガン大学歯学部客員講師
1995年 日本歯科大学歯学部歯科補綴学第1講座助教授
2004年 日本歯科大学歯学部歯科補綴学第1講座教授
2006年 日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第1講座教授(現)
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■■ 6. 「顎関節症の診断基準とガイドライン」 |
井 上 農 夫 男 氏
北海道大学大学院歯学研究科 口腔医学専攻 口腔健康科学講座
高齢者歯科学教室 |
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顎関節症の疾患概念およびその診査・診断と治療に対する考え方には、歴史的変遷がみられる。本邦における顎関節症の疾患観念は上野(1956)が提唱したのが始まりである。その後の顎関節疾患の研究の進歩と各種画像診断技術の進歩により,顎関節症の病態が詳細に解明されるようになり、顎関節症には病態の異なる各種の疾患が包含されていることが明らかになった。そこで、日本顎関節学会の前身である顎関節研究会から1986年、「顎関節疾患および顎関節症の分類」として症型分類が提案された。この分類により病態の主病変部位が明確になり、的確な診断が可能になった。さらにこの分類が普及したことで、各施設間の診断と治療の比較が可能になり、顎関節症の診査、診断、治療、研究の面における進歩に大きく貢献した。その後、研究の成果から分類に対する見直しが望まれるようになった。
1996年日本顎関節学会は顎関節症診断法検討委員会を設置し顎関節症の診断法について検討された。その結果、1996年、「顎関節症の疾患概念」の定義を明確にし,症型分類の一部を改訂した。1998年には「顎関節症の診断基準」,「顎関節症と鑑別を要する疾患」および「顎関節症における各症型の診断基準」をまとめた。これらを再検討し、日本顎関節学会の顎関節症の疾患概念や診断基準をより明確にし,理解を容易にすることを目的として2001年にガイドライン(顎関節症診療に関するガイドライン)が発刊された。
本邦における顎関節症の概念(1996)は「顎関節症とは、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし運動異常を主要症候とする慢性疾患群の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靱帯障害、関節円板障害、変形性関節症などが含まれる。」と定義されている。
顎関節症の症型分類(2001改訂)は,顎関節症T型:咀嚼筋障害、顎関節症U型:関節包・靭帯障害、顎関節症V型:関節円板障害、顎関節症W型:変形性関節症、顎関節症X型:T?W型に該当しないもの,以上の5つの症型に分類された。
顎関節症の診断基準(1998)は、「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害または顎運動異常を主要症候とし、類似の症候を呈する疾患(顎関節症と鑑別を要する疾患(2001改訂))を除外したもの。」である。なお、付帯する註として次が挙げられる。1.顎関節及び咀嚼筋等の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし顎運動異常の主要症候の少なくとも1つ以上を有すること。なお、顎位の変化あるいは筋の圧痛のみは顎関節症の主要症候に含めない。2.咀嚼筋等には,咬筋、側頭筋、内・外翼突筋の4咀嚼筋以外に顎二腹筋と胸鎖乳突筋を含む。3.画像所見のみ陽性で主要症候のいずれも有しないものは、顎関節症として取り扱わない。
さらに、顎関節症における各症型の診断基準(2001改訂)とその症型分類の手順が提示された。顎関節症の診断には、顎関節症の診断基準の必要条件を満たした症例において、先ず顎関節症と同様の臨床症状を呈する疾患群との鑑別診断が必要である。顎関節症の症型分類にあたっては症型分類系統診断法を用いることとし、顎関節症の症型分類の手順および診断基準を提示した。
系統診断の手順は,顎関節症W型:変形関節症→顎関節症V型:関節円板障害→顎関節症T型:咀嚼筋障害→顎関節症U型:関節包・靭帯障害→顎関節症X型:T?W型に該当しないものとし、規定の診断基準に従って判定するものとした。各症型の診断基準は次の如くである。1.顎関節症W型は所定の臨床像、および画像所見として辺縁性増生、吸収性変化を伴う骨皮質の断裂や下顎頭の縮小化を呈するもの。2.顎関節症V型は,臨床像から関節円板の位置異常と顎運動中における復位の有無、すなわちa.復位を伴うもの、およびb.復位を伴わないものを診断し、MRIにより診断を確定する。3.顎関節症T型は部位を確認できる咀嚼筋等の顎運動時痛を示すもの。4.顎関節症U型は顎運動時に顎関節痛を訴え、触診で顎関節部の圧痛を同定できるものである。ただし、咀嚼筋等の症状および画像診断で骨変形ないしは関節円板障害が確認されたものは除外する。5.顎関節症X型はT?W型に該当しないものである。
以上、現在の日本顎関節学会の顎関節症の診断基準とそのガイドラインについて解説する。
略 歴(学歴・職歴)
1974年 北海道大学助手 歯部附属病院第二口腔外科
1985年 北海道大学助教授 歯学部口腔外科第二講座
2000年 北海道大学教授 大学院歯学研究科口腔健康科学講座高齢者歯科学教室
2011年 北海道大学特任教授 大学院歯学研究科口腔健康科学講座高齢者歯科学教室
2012年 北海道大学退職
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